タイで有名なオバケの話 ピー・プレート(ผีเปรต)
ピー・プレート(ผีเปรต)は、タイの民間信仰や仏教観と深く結びついた伝統的な怪異の一種です。その名称はサンスクリット語の「プレータ(餓鬼)」に由来しており、因果応報の教えを人々に伝える象徴的な存在として知られています。
■ 容姿と生態
ピー・プレート最大の特徴は、ヤシの木にも例えられるほどの異常な長身です。手足はバナナの葉のように細長く巨大である一方、口は針の穴ほどしかないとされており、極端に不釣り合いな身体を持っています。
この極端に小さな口のため、彼らは常に激しい飢えと渇きに苦しんでいます。食べ物を口にしようとしても、炎となって燃え尽きてしまうとされ、決して満たされることはありません。
夜になると、その苦痛から「ピーツ、ピーツ」という甲高く哀れな声を発し、静まり返った闇の中へ不気味に響き渡ると語られています。
■ 目撃地域と特徴
ピー・プレートの目撃談は、主に古い寺院の境内や、人里離れた荒れ地などで語られています。特に新月の夜には、本堂の裏手などに巨大な人影が静かに立ち尽くしている姿が目撃されると言われています。
彼らは人間を襲って危害を加える存在ではありません。ただひたすらに、自身の飢えと苦しみから逃れるため、生きている人間――特に徳を積んだ僧侶や自らの親族――の前に現れ、功徳を分け与えてもらうために彷徨っているとされています。
■ 起源と因果応報の伝承
先述のピー・ガスーやピー・ガハンとは異なり、ピー・プレートには唾液などによる「呪いの継承」は存在しません。これは、生前に犯した罪に対する因果応報そのものと考えられているためです。
生前に「両親へ暴力を振るった者」「徳の高い僧侶や恩人を罵倒した者」「寺院の財産を横領した者」「極度に強欲で他人を騙した者」などは、死後、その報いとしてピー・プレートへ転生し、終わることのない飢餓と渇きに苦しみ続けると信じられています。
■ 民俗学的背景と風習
タイには、このピー・プレートの伝承に由来する伝統行事が現在も残されています。それが、タイの陰暦10月頃に行われる「サルト・ブアン・シブ(十月半ばの祭り)」です。
この祭りでは、あの世から現世へ戻ってくるピー・プレート――すなわち飢えに苦しむ祖先の霊たち――のために、彼らの小さな口でも食べやすいよう工夫された特別なお菓子や供物が用意されます。
そして寺院で供養と回向を行い、その功徳を祖先へ届けるという風習が、現在も大切に受け継がれています。
■ 関連作品(映画・ポップカルチャー)
ピー・プレートを題材にしたタイのホラー映画の中でも、特に高い知名度を誇り、社会的にも大きな話題を呼んだ代表作が2作存在します。
まず1作目は、2009年公開のオムニバス・ホラー映画『フォービア2(5แพร่ง)』です。
その中の一編「バックパッカー(第1話:末路)」では、親不孝な若者が因果応報によってピー・プレートへと変貌していく恐怖が、リアルかつ圧倒的なビジュアルで描かれました。その衝撃的な描写は、多くの観客に強烈なトラウマを与えたことで知られています。
2作目は、2015年公開の映画『アーパット(อาปัติ)』です。
本作では、仏教の戒律を破った若い僧侶が、ピー・プレートにまつわる呪いへ巻き込まれていく様子が描かれています。宗教的タブーへ深く踏み込んだ内容だったことから、タイ国内では一時上映禁止騒動にまで発展し、大きな社会的議論を巻き起こしました。
これらの作品を通じて、ピー・プレートは単なる恐怖の象徴ではなく、「悪行を重ねた者は死後にその報いを受ける」という仏教的道徳観を現代社会へ伝える、象徴的なモチーフとして描かれ続けています。





















