タイの有名心霊スポット ウドーンターニー県の「カムチャノートの森(ป่าคำชะโนด)」
ウドーンターニー県の「カムチャノートの森(ป่าคำชะโนด)」
タイ東北部ウドーンターニー県バーンドゥン郡には、神聖さと神秘的な雰囲気を併せ持つ、タイ有数の聖地があります。それが、ヤシ科の植物「チャノート」が密生する森、通称「カムチャノート(คำชะโนด)」です。
水に囲まれた島のような地形を持つこの場所は、地下に広がるナーガの王国と人間界を結ぶ入口であり、ナーガの王プー・シー・スットーと、その妃ヤー・シー・パトゥムマーが守護する聖域だと信じられています。
また、タイを代表する都市伝説の一つ「幽霊に雇われた映画上映(ผีจ้างหนัง)」の舞台としても広く知られています。
■ 神聖な森と「幽霊の映画上映」伝説
カムチャノートは、ナーガが暮らす地下世界と人間界を結ぶ場所として、古くから周辺住民の信仰を集めてきました。
この地を一躍有名にしたのが、1989年に起きたとされる「幽霊の映画上映」にまつわる出来事です。
伝説によれば、ある野外映画の上映業者が、見知らぬ男性から「夜中にカムチャノート付近で映画を上映してほしい」と依頼を受けました。条件は、夜明け前までに上映を終えること、そして現場を立ち去る際には決して後ろを振り返らないことだったとされています。
上映を始めた当初、会場には誰一人として姿を見せませんでした。しかし、夜が更けると、白い服をまとった女性たちと暗い色の服を着た男性たちが、森の中から次々と現れたと言われています。
観客たちは映画を見ても笑ったり声を上げたりすることなく、異様なほど静かに座り続けました。そして上映が終わる頃には、現れたときと同じように、いつの間にか姿を消していたと語られています。
翌朝、スタッフが近隣の住民に上映場所について尋ねると、「その場所に人の住む村などなく、あるのはカムチャノートの森だけだ」と告げられたといいます。
なお、報酬として受け取った現金については、そのまま本物の紙幣として残っていたという説と、後に木の葉へ変わったという説があり、伝承によって内容が異なります。
また、謎の観客についても、死者の霊だったという説のほか、ナーガたちが人間の姿へ変身して映画を見に来たという説が語られています。
■ 森にまつわる怪異と禁忌
カムチャノートには、現在もさまざまな怪談や不思議な体験談が残されています。
誰もいない森の奥から伝統楽器の音や人々の話し声が聞こえた、木々の間に正体不明の光を見た、森の中で突然方向感覚を失ったといった話が語られることがあります。
一方で、カムチャノートは単なる心霊スポットではなく、現在も人々が真剣な信仰を寄せる神聖な場所です。
参拝者は森へ入る際に靴や帽子を脱ぎ、乱暴な言葉や不敬な発言を慎むことが求められます。また、森の木の葉や石などを勝手に持ち帰ることも禁忌とされています。
こうした決まりを破ると、体調不良や災いに見舞われるという言い伝えがあるため、訪れる人々は敬意を持って行動します。
■ 謎の観客の正体
「幽霊の映画上映」に現れた観客の正体については、現在もさまざまな説があります。
一般には、この世に未練を残した霊や、その土地を彷徨う霊魂だったと説明されることがあります。タイの信仰では、このように行き場を失って現世を彷徨う霊を「サムパウェーシー(สัมภเวสี)」と呼びます。
その一方で、カムチャノートがナーガの聖域であることから、観客たちは幽霊ではなく、映画を見るために人間へ姿を変えたナーガだったという説も広く語られています。
そのため、「ผีจ้างหนัง(ピー・チャーン・ナン)」という名称には「幽霊に雇われた映画上映」という意味がありますが、伝承の中の観客が必ずしも死者の霊だと断定されているわけではありません。
■ 関連作品
この有名な都市伝説は、2007年にホラー映画『The Screen at Kamchanod(ผีจ้างหนัง)』として映画化されました。
本作では、「幽霊に雇われてカムチャノートで映画を上映した」という出来事に執着する医師ユットが、仲間たちとともに事件の真相を調査し、当時上映されたフィルムを探し出そうとします。
しかし、調査を進めるにつれて、彼らの周囲では説明のつかない怪奇現象が次々と起こり始めます。
映画は伝説をそのまま再現するだけでなく、事件の真相を追おうとする人々が死者の世界へ足を踏み入れていく物語として描かれており、「カムチャノート」という土地が持つ神秘的で不気味なイメージを強く印象付ける作品となっています。
■ 現在のカムチャノート
現在、カムチャノートはタイ各地から多くの参拝者や観光客が訪れる、人気の高い信仰・観光スポットとなっています。
森の中にはプー・シー・スットーとヤー・シー・パトゥムマーを祀る場所や、ナーガの世界へつながっていると信じられる聖なる泉があります。参拝者たちは旅の安全、商売繁盛、幸運などを願い、供物を捧げます。
昼間は多くの人々でにぎわいますが、チャノートの木々が密生する森には、今なお独特の静けさと神秘的な空気が漂っています。
カムチャノートは、ナーガへの信仰、自然への畏敬、そして「幽霊の映画上映」という都市伝説が重なり合った、タイでも類を見ない聖地として知られています。





















